2012/6/29
第3話 思い出(1)ママとの出会い
去年(2011年)の4月15日。ボクは一生この日を忘れないだろう。
何故って?ボクがはじめてママに出会った日だから。それもちょっとした偶然で!
場所は三宮のドギーズ神戸というお店。ボクは妹のベルともう一匹の子犬(ゴメン、名前は忘れた)とサークルの中でじゃれあったり、ボンヤリ道ゆく人を眺めたりしていた。時々、腰をかがめてサークルの中をのぞいていく人がいる。そんな中にママがいたんだ。
この日ママは偶然この道を通りかかった。そしてふっとサークルの方を見たんだって。犬を飼ったことなんて一度もなかったし、飼おうなんて思ってもいなかったママなのに。
ママはお店の人と少しお話をして、帰りがけにまたボクを見たらしいけど、ボクはベルと遊んでいたので覚えていない。
夕方オジサンを連れて、またやってきた。それがパパだった。ママは「近くのお店に耳が裏返るかわいい子犬がいるの、行ってみない?」って言ったんだって。
後で聞いたんだけど、この日はパパの69回目の誕生日。そんな大事な日にボクに会いに来てくれたんだ。お店の人がボクを抱き上げて紹介してくれた。「エディくんです。この子は2月7日生まれでとてもおだやかな性格の子なんです」
「エディか、つぶらな目がとてもかわいいね」パパが言った。「今日は耳が裏返ってないね」「トイプードルは耳の位置によって裏返りやすい子がいるんです」とお店の人。「裏返ったのを全然気にしないで遊んでるところがかわいいの」とママ。
その夜、パパとママはボクを家族に迎えるかどうか真剣に話し合ったらしい。特にママはボクを本当に幸せにできるかどうか悩んだんだって。そして最後にパパが言ったらしい。
「ママが飼ってみたいならそうしよう。このマンションは犬が飼えるんだし、十分な広さもある」パパとママは半年前に今のお家に引っ越してきた。20年以上も住んでいた前の部屋は、ずっと狭くて動物も禁止だった。「このマンションもママが見つけたんだし、ここに来なければエディとの出会いもなかった。偶然のように見えて、必然だったのかもしれないよ」
次の日は土曜日。二人は昼過ぎにお店に来た。(午前中は映画「クレヨンしんちゃん」を見に行ってたんだって)ママはボクを家族にするための手続きをしながら、まだ気がかりのことをお店の人に質問した。
「病気になったら?狂犬病とか、感染症とか・・・」
「二人とも忙しいので、家を空ける時があるけれど・・・」
「毛が抜けないって本当?」
「トイレは決まったところでする?」
「吠えてマンションの人に迷惑にならない?」
その間、ボクはずっとパパに抱かれていた。それを見てお店の人が「ご主人は犬を飼ったことがおありですね」と聞いた。
「抱いているところを見ればわかります。」
「あっ、実家で飼ってましたね。外犬でしたけど。」
「いつ頃ですか?」
「大学で京都に来た頃ですから、50年くらい前ですか」
「ええっ、50年前?」
お店の人は目をパチクリ。
犬を飼うのは二人とも「ど素人」だってわかってちょっぴり不安になったらしい。お店の人の気持ちがボクに伝わった。以心伝心ってヤツだ。ボクもちょっと不安になって体を曲げてパパの顔を見ようとした。「あっ、臭い!」とパパが言った。「エディ、ウンチしたんじゃないか?」「えっ、ウンチ?」いくらボクがチビでも人に抱かれたままでウンチなんかするわけがない。そう思ってまたパパの方を見ようとしたらパパの手がお腹のあたりにあたった。「あっ、エディまた臭いぞ」とパパ。「あー、わかりました。エディがオナラをしたんです」とお店の人。「エディはすっかりご主人さまに抱かれて安心してるんですね。2回もオナラをするなんて。まったく珍しいことです。」
さすがにお店の人は上手いこと言う。
「名前はエディのままにしましょう」新米のパパとママは翌日の日曜日からボクを飼うことに決めた。超特急で準備だ。サークル、トイレトレー、ドッグフードはお店で調達。その他のものは近くのショッピングセンターで。お店の人が一緒に行ってくれた。ペット関係の品物があまりに多くてびっくり。何を選べばいいのかわからない。何とかテント式のベッドと食器、水飲み器、そして2、3のおもちゃを選んで、夕方お家にセットした。
その間、ボクはボンヤリ新しいパパとママのことを思っていた。ボクたちには、仕事をしたり、TVを見たり、旅行やショッピングをしたりなんて楽しみはない。ボクたちは飼ってくれる人といつもいっしょにいること(たとえ留守の時があっても)その人たちの愛情によってしか幸せになれないんだ。
パパとママは新米だって不安はあるけど、ボクを大事にしてくれるに違いない、と思って眠りについた。
そして日曜日。パパとママは小さなバッグを持って迎えに来た。ボクはすっかりうれしくなってバッグに入って新しいお家へむかった。途中、ベルのことが頭に浮かんだ。ボクと同じ日に生まれたのに、ボクよりひとまわり小さいベル。女の子にしてはヤンチャな、どこかひょうきんなところのあるベル。血を分けたたった一人の妹なのに。もしかしたら遠いところに飼われていってしまうかもしれない。ボクだけ喜んでいて、ベルに悪いことをしたと思った。
新しいお家のあるマンションの入り口にカブトが飾ってあって、パパとママと記念写真を撮った。5月5日の男の子の節句のお祝いの飾りだって。外国の人も多く住んでいるので、日本の文化や習慣にちなんだものを飾るらしい。
お家に入ってびっくりした。広い。パパが抱っこしてボクを案内してくれた。「お客様用の寝室とリビングは出入り禁止。あとはエディの自由だ」
夜、ママが用意してくれた夕食を食べて、おもちゃとスリッパで遊んだ。ボクの新しい生活が始まったんだ。
(その後わかったことだけど、妹のベルはすぐ近くのお家の家族に迎えられて、ボクは時々ドギーズ神戸で会っている。
パパに禁止されたお客様用のリビングと寝室にはたまに入って探検している。)
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