2012/6/21
第1話 入社式
月日の経つのは早い。パパとママが「エディを社員犬にしようか」って話し合っていたのは、うんと寒い頃だった。「社員犬?ナニそれ!」って思ったけど、どうせボクが大きくなってからのことだと思って忘れていた。それがもう入社式だって。夜、ママが「エディ明日はこれを着よう」ってボクの服を選んでくれた。ラガーマンのパーカーJ・PRESS 02ってカッコいいヤツだ。
そして、朝。いつものゴハンの後で「お赤飯」っていうのをちょっともらった。口の中がグニャグニャしたけどがまんして食べた。ボクが入社するのは、ワオ・コーポレーションという会社だ。前にママの車に乗って2回行ったことがある。その時いろんな人がボクのそばに来て「エディー」とか「かわいいね」とか言ってくれたけど、そのむこうにパパがいたのにはびっくりした。パパはいつも朝「バイバイ」って出て行って、夜帰ってくるけど、こんな所に来てたんだ。パパがこの会社の社長サンなので、ボクは入社できたんだって。それって「コネ」っていうヤツ?パパは「わが社ではじめての縁故社員だ」って言ってるらしい。
ところで、入社にあたってママが「エディの名刺がいるわね。肩書もあった方がいいわ」って言った。ボクが寝ている間に決まったのは「癒やしのエディー」。「有名なサザン・オールスターズの『いとしのエリー』からとったんだ。いいだろう?」とパパ。「私たちもそうだけど、エディに癒やされる!って人が多いからピッタリよ」とママ。「肩書」ってそんなに簡単に決まっていいのかな?正式な仕事は「広報」と「癒やし」だって。広報はわかるけど、癒やしなんて部門は聞いたことがない。
「勉強している子どもたちと親、仕事をしている社員の気持ちを和ませてくれればOKだ。エディ、給料なしのボランティアだけど頼むぞ」とパパ。ボクにそんな力があるのかな? ボクはごはんもつくれないし、ケージも開けられないし、チッチ(オシッコ)やウンチの始末もできない。みんなパパとママがやってくれるんだ。だからパパとママのためになることなら、何だって引き受けるって決めた。それに、ボクだって犬として生まれた以上、犬なりに社会のために役立ちたいという気持ちもある。
入社式の日。会社の人が特別に車で迎えに来てくれた。ボクはちょっと緊張したけど、ママの横で外を見ているうちすっかり安心してウトウトしてしまった。入社式って、何か言わなきゃいけないんじゃない?ボクはボーっとしながらママに抱かれて車を降りて、いつもの5階へ行った。「エディくんおはよう」「エディくん今日は頑張ってね」「エディちょっと見ない間に大きくなったやん」いろいろな声の主の間を歩きまわっているうちに、ボクが式に出る時間になった。ボクはママに抱かれて1階の会議室へ。
そこには今日からボクの同僚になる人たちが並んでいた。
「おうエディ」とか言ってくれると思ったけど、誰もそんなことは言わない。ボクを見て顔はちょっとゆるんだけど無言だ。机の奥にパパがいて、ボクはパパに抱かれてみんなに向き合った。よく見ると、みんな賢そうだ。たくさんの人の中から選ばれた人たちなんだって。ボクはちょっと不安になった。ボクはみんなのように試験も受けてないし、面接もしなかった。それに、まだ1年と2ヵ月しか生きていないんだ。どうしよう!
その時、ボクはママがほめてくれる時にいつも言ってくれることばを思い出した。「エディは賢いね。人間だったら東大に入れるかもね!」東大?そうだ、ボクは東大なんだ! って思った途端ちょっと気が楽になった。「これがさっき話した社員犬、癒やしのエディだ。みんなよろしく頼む」とパパがボクを紹介した。それで式は終わり。ボクはすっかり元気になってみんなと記念写真をとった。この同期の人たちと一緒に会社のためになれるといいな!
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